研究課題
肺移植では虚血再還流障害が移植肺の生存期間を悪化するとされているが、虚血再還流障害による移植肺生着への影響やその機序については解明されていない。本研究では肺移植後の虚血再灌流障害による移植肺生着阻害の機序を解明することが目的である。このため、同所性マウス肺移植モデルを用いて、肺移植後の虚血再灌流障害により発生する炎症性シグナル、特にIL-6が移植肺生着阻害において果たす役割を検討した。まずIL-6中和抗体の生体外での効果を検討するため、IL-6が細胞生存と増殖に必要なセルラインを使用し、IL-6中和抗体が容量依存性にセルラインの増殖を抑制することを確認した。次に同所性マウス肺移植をBalb/cマウスからB6マウスに冷虚血時間1時間で施行し、移植後7日目に急性拒絶反応が発症することを確認した。この急性拒絶反応はMR1とCTLA4-Igの2剤投与(二重共刺激阻害)で抑制され、免疫寛容の導入が可能であった。しかし、Balb/cドナー肺の冷虚血時間を1時間から18時間に延長すると、B6レシピエントに移植後に二重共刺激阻害で免疫抑制を施行しても、移植後7日目に高度の急性拒絶反応の所見を認めた。IL-6中和抗体のマウス生体内での効果を検討するため、移植日前日にドナーBalb/cマウスにIL-6中和抗体を投与し、18時間冷虚血時間でB6レシピエントに移植し二重共刺激阻害による免疫抑制を施行した。レシピエントにもIL-6中和抗体を移植日前日、移植日から術後4日目まで投与した。未治療のマウスに比べ、移植後7日目の急性拒絶反応が軽度であり、フローサイトメトリーでは移植肺内のIFN-γ産生CD8陽性Tリンパ球の割合が著明に低下していた。これらは肺移植後の虚血再灌流障害による移植肺生着阻害においてIL-6が重要な役割を果たしていることを示しており、機序解明に向けて今後更なる検討を行う予定である。
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