細胞接着因子であるintercellular adhesion molecule-1 (ICAM-1)は、内皮細胞をはじめ各種細胞に発現する膜貫通型の糖タンパクであるが、マクロファージなど炎症細胞の組織への接着に関与し、炎症性疾患の発症・進展と深く関与している。現在のところ腹部大動脈瘤の病変組織においてはマクロファージなどの炎症細胞の集簇が認められ、これらの細胞の腹部大動脈瘤発症・進展への関与が強く示唆されているものの詳細はまったく不明である。 我々は、今までの研究や報告により、ICAM-1がマクロファージなどの炎症細胞の浸潤を制御し、それらによる炎症を介して腹部大動脈瘤の発症・進展に関与しているのではないかという仮説にいたった。そこで本研究においては(1)ICAM-1ノックアウトマウスの腹部大動脈瘤に対する影響の検討、(2)骨髄由来細胞及び血管壁構成細胞由来のICAM-1の腹部大動脈瘤に対する影響の検討、(3)骨髄由来細胞や血管壁構成細胞におけるICAM-1がもたらす細胞浸潤制御機構およびそれによる細胞外基質の調節機構の検討などを行うことにより、腹部大動脈瘤におけるICAM-1の重要性と分子機構を明らかにすることを目的とした。平成22年度の結果を踏まえ、平成23年度は、まず、apoEノックアウトマウス(SKO)およびICAM-lxapoEダブルノックアウト(DKO)マウスそれぞれから骨髄細胞を採取し、それぞれのレシピエントマウスに移植し、合計4群のキメラマウスを作製した。移植後5週間たったところでアンジオテンシンII(AngII)を投与した。血圧やコレステロール、体重には群間で差がない一方、レシピエントのジェノタイプがICAM-1ノックアウトである群で大動脈瘤の形成が有意に抑制された。したがって骨髄由来細胞のICAM-1ではなく、血管壁構成細胞におけるICAM-1が重要であるという結果を得た。
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