本研究は、消化管におけるあらゆる病変の切除範囲を最小限にとどめ、生体機能を温存させることを可能にする人工腸管壁の開発を目的としてブタを用いて行ったものである。人工腸管壁として、独自に開発した生体吸収性ポリマー(ポリ乳酸とポリカプロラクトンの共重合体をポリグリコール酸の線維で補強したもの)を用いている。昨年度は胃壁、大腸、小腸壁に本素材をパッチ状に移植することでnative同様に再生し得ることが実験で証明された。本年度は、人工胃壁の素材に改良加えた実験を行った。これまで使用してきた上記ポリマーは、フェルトの様な触感で軟らかい素材である。より強度を増すために、ポリ乳酸で作成した約1mm程度の太さの格子をこのポリマーに組み込んで剛性を増した。これはポリ乳酸の格子の吸収分解が遅いため、長期に移植部に遺残する。胃体前壁に8×8cm大にパッチ状に移植し、12週後摘出した。肉眼的にはポリマーの破綻無く、潰瘍面の大きさも格子の無いものに比べて大きな差は無かった。しかし組織学的所見では、格子を組み込んだものは線維性の組織が非常に厚く、筋肉や粘膜の再生は格子を組み込まなかったものに比べて不良であった。このことから人工胃壁として用いる素材は、これまで用いてきた早期に吸収される素材が適しており、剛性を増すために格子を組み込み吸収により長時間を要する素材は、線維化が強く組織学的に良好な消化管再生が得られないという結論に達した。更なる改良の必要性はあると思われるが、これまで我々が用いてきた生体吸収性ポリマーの組成は過剰な線維化を生じることなく組織学的にも良好な再生が得られており、消化管再生に適した組成であると考えている。また付加実験として腹壁、膀胱などにも本素材を用いて実験を試みたが一定の良好な結果が得られており、これは様々な臓器へ応用し得る可能性を秘めた素材であると思われる。
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