研究概要 |
予後不良の乳癌では、ErbB2およびErbB3からなるヘテロダイマーの発現が頻繁に認められ、乳がん悪性化形質発現に機能していると考えられる。「ErbB2/ErbB3」2量体(ダイマー)由来のシグナルは悪性化誘導能が非常に高い。一方、このヘテロダイマーを分解しシグナル停止する「受容体輸送・分解系」の不活性化が乳がんの悪性化に関与する可能性が想定される。本研究ではErbB2およびErbB3を不活化する輸送分解系と発がん・悪性化形質制御を明らかにし、乳がん制御の新たな分子基盤を解明することで、新しい分子標的の同定と特異的治療薬開発に道筋をつけることを目的とする。ヒト乳がん細胞株MCF7を用いて、ErbB3のリガンドであるNRG1β刺激をしたところErbB3は刺激によって分解が促進した。さらに刺激によるErbB3分解は、プロテアソーム系であることが示唆された。また、ErbB3の分解にはErbB3細胞質内領域の一部(アミノ酸部位1054-1153)が重要であることが分かった。ErbB3には、Grb2 binding siteが2か所存在(アミノ酸部位1199,1262)することら、この結合と分解の関連を検索した。結合に必要なチロシン(Y)をフェニルアラニン(F)に置換した変異体を作成したことろ、Grb2 bindig siteとはErbB3の分解調節に関与しないことが明らかとなった。293T細胞を用いてユビキチン化アッセイを行ったところ、ErbB3をユビキチン化するE3ライゲースとして既知のNrdp1以外に、新たにNedd4,Aip4によってもErbB3のユビキチン化が引き起こされていることが判明した。従って、ErbB3の過剰発現には複数のE3の機能不全が関与する可能性があることが示唆された。
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