研究概要 |
浜松医科大学外科学第二講座にてマウスの皮下で継代維持しているヒト大腸癌固形腫瘍TK4を同所(盲腸壁)へ移植し、抗vascular endothelial growth factor (VEGF)中和抗体治療を行ったところ、腫瘍血管密度が低下し移植腫瘍が縮小したが、完全には増殖阻害されなかった。そこで同治療中の移植腫瘍(ヒト組織)における遺伝子発現変動をマイクロアレイ(human chip)にて解析した。抗VEGF抗体治療により移植腫瘍で発現が亢進した97遺伝子のうち、最も発現変化が大きかったstanniocalcin 2 (STC2)に注目した。STC2はhypoxia inducible factor-1 (HIF-1)の標的遺伝子であり(Exp Cell Res.314(8) : 1823-30, 2008)、低酸素環境で発現が亢進することが知られている。また、STC2は癌の浸潤転移に関与するとされる上皮間葉移行(epithelial mesenchymal transition : EMT)を誘導することが最近報告されている(Exp Cell Res.316(20) : 3425-34, 2010)。STC2の他、抗VEGF抗体治療により発現が亢進した遺伝子として、複数のheat shock protein (HSP)が同定された、このうちの数種類は幹細胞の維持に関与していることが報告されている(Bioessays 31(4):370-7,2009)。さらに、Gene Set Enrichment Analysis (GSEA)による発現解析では、EMT誘導や癌幹細胞維持に関与するTGFβ経路の活性化が抗VEGF抗体治療によって惹起されていることが確認された。これらのことから、抗VEGF抗体治療中の腫瘍における低酸素環境が、EMTや癌幹細胞の誘導を介して浸潤転移能を亢進させている可能性が示唆される。次に抗VEGF抗体治療によりEMTが惹起されているか検討すべく、TK4同所移植腫瘍におけるEMTマーカー(E-cadherin, N-cadherin, vimentin)の免疫組織化学染色を行ったが、TK4腫瘍の染色性の問題から十分な評価に至っていない。また、HSPの発現変化をqPCR等にて評価したが、抗血管新生治療に伴う有意な変化は確認できなかった。現在、癌幹細胞マーカーCD133,CD44やCD26の免疫組織化学染色による評価を行い、新規知見を得ている。さらに、抗血管新生治療により生じる低酸素環境の評価を、HIF-1.HIF-2の免疫組織化学染色により行っている。
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