研究概要 |
「研究の目的」 質量顕微鏡法を用いて肝細胞癌手術摘出標本の癌部と隣接非癌部における脂質分布の違いを明らかにし、発癌や癌の進展における脂質合成・代謝経路の関与を解明する。 「研究の成果」 肝細胞癌37例(C型肝炎由来25例、B型肝炎由来7例、非B非C5例)を対象に質量顕微鏡法を用いて解析を行った。解析により、肝細胞癌と隣接非癌部においてリン脂質の分布が異なることが判明した。また肝細胞癌であってもC型肝炎由来、B型肝炎由来、非B非C肝細胞癌で同じような分布を示すわけではなく、リン脂質の分子種によっては分布が異なることも明らかになった。 癌部と隣接非癌部においてリン脂質の分布が異なる原因として、リン脂質のリモデリング酵素であるLysophosphatidylcholine acyltransferase(LPCAT)の発現が変化していると推測し、4種類のサブタイプの発現をRT-PCRで確認したところLPCAT1の発現が癌部において増加していることが明らかになった。またLPCAT1に関してはWestern blottingにて蛋白レベルでも発現が増加していることが明らかになった。 LPCAT1の肝細胞癌に対する影響を調べるために、2種類の肝細胞細胞株(Huh7, HepG2)に対してsiRNAを用いてLPCAT1の遺伝子発現を抑制したところ、コントロールの細胞と比較してリン脂質の組成に変化が生じた。LPCAT1のノックダウンにより、2種類の細胞ともに増殖が抑制された。また、細胞の浸潤・遊走に関してmigration assayとinvasion assayを行ったところ浸潤・遊走供に抑制された。 次にLPCAT1を過剰発現させた細胞で同様の実験を行ったところ、細胞増殖や浸潤能が増加することが確認された。 次年度は、この研究成果を論文としてまとめ発表する予定である。
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