現在の外科周術期管理においては術後早期経口摂取が推奨されている。下部消化管術後とは異なり上部消化管術後では吻合部に罹る負担が懸念され報告は少ない。我々は上部消化管術後ラットモデルを作成し、術後早期経口・経腸栄養開始が吻合部や腹壁創の創傷治癒に与える影響の解析を行った。また消化管粘膜に存在するIL-22産生NK細胞の創傷治癒に与える影響の解明を予定している。 1.上部消化管切除・吻合ラットモデルの確立ならびに評価方法の確立 前年度までの研究で上部消化管切除・吻合ラットモデルの確立を行い、術後犠牲死させ吻合部bursting pressure、腹壁創skin wound breaking strengthの測定時期は術後5日目が最適と判明した。しかし実験を重ねていくに従い手術手技や標本摘出手技により著しく結果が異なることが明らかとなった。現在も手技の安定化に努めている。 2.創傷治癒におけるIL-22産生NK細胞の役割の解明 フローサイトメトリーを使用し腸管粘膜からNK細胞を検出すると同時に肝還流液内リンパ球の解析も行ってきた。腸管粘膜からのNK細胞検出は腸管粘膜が菲薄化し十分なリンパ球採取が困難であり、現在も採取法など改良を重ねている。しかし一方で実験経過中に3日間絶食となったラットの解析を経験し、肝還流液中リンパ球の著しい減少ならびにフェノタイプの変化を認めた。絶食による免疫応答反応変化を検討する目的にマウスを用い、絶食・非絶食下での肝還流液中NK細胞・NKT細胞の発現変化を確認した。結果、絶食(3日間)によげNKT細胞分画は増加しまたNK細胞では分画に変化はないがTRAILやCD69の活性化マーカー発現増加を認め、絶食により肝内の自然免疫反応の増強が引き起こされることが明らかとなった。 3.腸管吻合部の創傷治癒を促進させる周術期栄養管理の検討 絶食による自然免疫の増強を正常化させる栄養素として、アルギニン・グルタミンなどアミノ酸に着目した。今後は絶食マウスに対してアルギニンなどのアミノ酸を投与することにより、自然免疫反応の変化を確認していく予定である。
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