研究概要 |
1型糖尿病の治療法に、再生医療を用いたβ-cell replacement therapyに期待が寄せられている。今回、ヒト脂肪由来幹細胞(human Adipose-tissue derived stem cell : ADSC)に着目し、ADSCを用いたβ-cell replacement therapyの有用性およびその機序を明らかにする。1.ADSCの傷害膵島への影響に関する検討:ADSCをストレプトゾトシン(STZ)誘導糖尿病nude mouseの膵実質へ移植(ADSC群)し、コントロール群としてSTZのみ投与したnude mouseと比較し、血糖値、免疫染色(ヒトインシュリン,HLA)を検討した。糖負荷試験ではADSC群は血糖値が110mg/dlまでに保たれ良好な応答を示した。免疫染色では、ADSC群では2.6個/HPF(high power field)のHLA陽性インシュリン産生膵島様細胞を認めた。2.ADSCを用いたブタ膵島再生に関する検討:ブタ膵島を単培養した群(膵島単独群)、およびブタ膵島とADSCを共培養した群、またコントロールとしてADSC単独培養した群(ADSC単独群)を作成。共培養群は、隔絶膜下に細胞接触が無い状態で培養した群と、ある状態で培養した群の2群に分け、48時間後に膵島recovery率、viability、各群の培養液中のサイトカイン(IL-6,IL-8,VEGF)、インスリンを測定した。膵島recovery率やviabilityは膵島単独群に比べ共培養群で有意に良好であったが、細胞接触の有無では差を認めなかった。またIL-6、IL-8、VEGFといったサイトカイン、インスリンも膵島単独群にくらべ共培養群で有意に高値であったが、細胞接触の有無では差を認めなかった。3.ADSCの傷害膵島へのhoming作用に関する検討:STZ誘導糖尿病マウス、controlマウスの膵組織採取しSDF-1 mRNA発現を比較、さらにそれぞれXenolight DiR[○!R]でlabelingしたADSCを尾静脈より静注し、IVIS[○!R]を用いてADSCの体内動向を追跡、また血糖を経時的に測定した。膵組織のSDF-1発現は両群で差を認めず、さらに静注24時間後、ADSCはほとんど肺、肝にトラップされ、膵臓への集積は認めなかった。またADSC投与群において血糖の改善は認めなかった。以上より、ADSCは分化方向を決定せずとも機能的膵島様細胞に分化する可能性が考えられ、さらにADSCは細胞接触作用無しに膵島保護作用を有するが、静注によるhoming効果は乏しく、投与経路を再考する必要があると考えられた。
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