研究概要 |
膵癌は予後不良な癌腫の1つであり、その理由として診断時には局所進行もしくは遠隔転移を生じている場合が多いことが挙げられる。癌の局所進行および転移は癌の浸潤過程を経て生じるため、膵癌のような進行の早い癌腫の浸潤に携わる遺伝子群の同定は、早期発見のみならず膵癌の新規治療の標的遺伝子になりうる。そこで本研究は網羅的遺伝子発現解析を用い、膵癌の浸潤過程に関与する遺伝子群の同定を試みた。本研究の網羅的遺伝子発現解析はより信頼性の高い遺伝子群を同定するために、同一個体の膵癌組織内の浸潤癌部位と上皮内癌部位をそれぞれマイクロダイセクションし、それぞれのRNAを抽出し、浸潤癌部位と上皮内癌部位のマイクロアレイデータを比較検討した。 当教室で切除した膵癌凍結組織を用い、同一個体の浸潤癌部位と上皮内癌部位のマイクロアレイデータを比較検討した。5個体全てで浸潤癌部に優位に高発現した遺伝子群は87個であった(fold change1.5以上,平均強度差100以上,p<0.05)。これらのうち最も浸潤部で高発現した遺伝子はMUC16で、さらにこれらの遺伝子群のリスト内に、卵巣癌でMUC16のリガンドであることが証明されているMesothelinが含まれていたので、この2遺伝子に着目した。現在までに当教室で切除した膵癌50症例のパラフィン切片を用いた免疫染色解析では、MUC16およびMesothelinともに正常膵管、正常膵組織、上皮内癌では発現していないが、浸潤癌部位のみで発現を認めた。さらに膵癌切除標本103例における免疫染色解析により、MUC16およびmesothelin高発現群は予後規定因子であることがわかった。 今後はこれらの2因子を標的としたペプチドを作成し、膵癌における新規免疫療法の開発に取り組む予定である。
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