胸腹部大動脈瘤手術に伴う対麻痺は非常に重篤な合併症であり、患者のQOLを著しく阻害するだけでなく、予後が不良である。対麻痺の発症予防のために様々な工夫がなされているものの、その発症を完全に抑えることができていない。当施設では、硬膜外冷却法、脊髄液ドレナージ法を本格的に導入し、対麻痺発症率を低下できてきてはいる。しかし、これらの方法は安全面に十分留意する必要があり、かつ効果に個人差がでてしまう欠点がある。これらを補う方法として今回胸腔内からの脊髄冷却法を考案した。この方法は安全且つ簡便に施行でき、硬膜外冷却法の不十分な点を補うことができる方法である。 現在は胸腔内からの脊髄冷却方法の確立を目指しているところである。体表冷却に使用した直接保冷剤(冷湿布)を胸腔内におくだけでは、時間経過と共に保冷剤の効果が変化し、一定の効果が得られなかった。冷却装置を新たに開発する必要があり、今回、ハイドロジェルをアルミニウムで覆い、ハンディクーラーの冷却装置でどの程度冷却できるか、冷却材の表面温度の変化の測定を行っており、冷却効果の評価を行っている。また、手術は限られたスペースで行われており、手術を邪魔することなく行うためには、小さくても効果的な冷却剤を胸腔内に敷き詰める必要がでてくる。冷却効果を図るために長時間一定の効果を保ち、組織障害がない、手術の邪魔にならない冷却剤の形態の形づくりを模索しているところである。
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