ヒアルロン酸は、ほぼすべての組織に存在する細胞外マトリックスであり、細胞の成長、増殖および運動などに影響を与える重要な分子である。ヒアルロン酸受容体として細胞膜上に存在するCD44は、リンパ球や好中球、樹状細胞、また血管内皮や腫瘍細胞にも広く発現している。本研究では、肺癌組織中のヒアルロン酸代謝動態と腫瘍細胞におけるヒアルロン酸受容体CD44の相互作用が、肺癌の生物学的悪性度に与える影響を解明することを目的とした。 平成22年度は、肺癌組織におけるCD44 standard form (CD44std)、CD44 variant 6 (CD44v6)、およびgalectin-9の発現について検討を行った。ホルマリン固定パラフィン包埋された肺癌組織を、3.5μmに薄切し、加熱による抗原賦活処理を加えた後、それぞれの抗原に対する一次抗体と反応させた。抗原抗体反応は、ストレプトアビジンビオチン法およびDAB発色により可視化した。 CD44stは、検討した肺癌組織(腺癌および扁平上皮癌)において、腺癌より扁平上皮癌での発現率が高く、扁平上皮癌ではほぼ全例で発現を認めた。CD44v6は、CD44stdの発現を認めた肺癌組織の一部に発現しており、腺癌より扁平上皮癌での発現率が高かった。一方、galectin-9の発現は、扁平上皮癌ではほとんど認めらなかった。また、腺癌では、CD44の発現が認められなかった組織にgalectin-9が発現する傾向を認めた。これらの結果から、CD44stdおよびCD44v6の肺癌組織型による発現率の違いは、腺癌と扁平上皮癌でヒアルロン酸を中心とする細胞外マトリックスに対する生物学的態度が異なっている可能性を示唆すると考えられた。さらに、肺癌組織においてgalectin-9の発現によりCD44の機能に何らかの調節がなされている可能性が示唆された。
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