研究概要 |
これまで、不全心への幹細胞移植に関する臨床試験がいくつか行われてきた。しかし、いずれの報告も移植による心機能改善効果は軽微であり、明らかな幹細胞の心筋細胞への分化は確認されていない。本研究者は、Forminファミリーの一員で心臓特異的な発現を示すFhod3に着目した。Fhod3は単量体アクチン重合によるアクチンフィラメント形成の制御を介して、心筋の分化、成熟に深く関与していると考えられる。これまでに本研究者の所属するグループは、ラット培養心筋細胞を用いた実験で、Fhod3によりサルコメア形成が促進されること、またSRFなどの転写因子が活性化される可能性があること、を示してきた(Taniguch K, J Biol Chem 2009;284:29873-81)。これらのことより、幹細胞への移植前処置としてFhod3強制発現をすることで、心筋細胞への分化誘導、成熟が進むのであれば、臨床成績の改善が可能だと考えられる。本研究はこの可能性を検討することを目的としている。本年度はまず、Fhod3ノックアウトマウスを用いて、個体レベルでFhod3が心筋細胞への分化に果たす役割を検討することにした。Fhod3ノックダウンによりサルコメア形成が阻害される、というラット培養心筋細胞での結果が、マウス個体レベルでも再現性があるかどうか検討中である。さらに、SRFのco-activatorであるMRTF-Bに注目した。MRTF-Bは単量体アクチンと結合することで細胞質にとどまっているが、単量体アクチン濃度が低下すると核内に移行し、SRFを活性化する。Fhod3によるSRFの活性化は、Fhod3のアクチン重合制御と深く関係していると考えられる。そこでFhod3ノックアウトマウスにおけるMRTF-Bの核内移行に関して、解析を進めている。
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