アクチン重合制御因子Fhod3は、単量体アクチン重合によるアクチンフィラメント形成の制御を介して、心筋の分化、成熟に関与していると考えられる。本研究では、Fhod3を標的とした心筋細胞の分化誘導促進の可能性を検討することを目的としている。そのために本年度も昨年度に引き続き、Fhod3遺伝子改変マウ速を用いて、個体レベルでFhod3が心筋細胞への分化に果たす役割を検討した。Fhod3遺伝子のプロモーターの下流でlacZ遺伝子を発現するマウスを用いてFhod3の発現を検討したところ、Fhod3は胎生7.5日には既に心臓原基に発現しており、個体発生過程での心筋細胞分化・成熟に関与している可能性が示された。そこで、発生段階における心筋でのFhod3の局在を詳細に検討したところ、マウス胎仔ならびに成獣においてFhod3は心筋の収縮装置であるサルコメアのアクチン線維に局在していた。この局在パターンは、ヒト心筋症患者の不全心筋切片においても観察された。次にFhod3の強制発現の影響を見るために、αミオシン重鎖(α-MHC)プロモーターの制御下で野生型Fhod3を発現するトランスジェニックマウスを作成した。強制発現したFhod3は、内因性Fhod3と同様にサルコメアに局在しており機能的であると考えられたが、Fhod3の強制発現による心筋の分化・成熟への影響は観察されなかった。一方で、Fhod3のコンベンショナル・ノックアウトマウスを作出して解析したところ、心筋の分化・成熟に甚大な影響が観察された。本研究の結果は、Fhod3を標的とした心筋細胞の分化誘導の可能性を示しており、将来的には幹細胞移植への応用が期待できることが示唆された。
|