ラットの間葉系幹細胞を液状のコラーゲンと混合、リング状の鋳型内で三次元培養し、リング状の組織を作成した。組織作成中に間葉系幹細胞が骨芽細胞へ分化するように誘導した。培養液中へのオステオカルシン(OC)の分泌量の測定、細胞外マトリックスへのカルシウム(Ca)の沈着量の測定から、間葉系幹細胞の骨芽細胞への分化の効率を培養皿上での二次元培養と比較した。 これまでの二次元培養における報告と同様に、培養液にアスコルビン酸-2-リン酸(82μg/ml)、デキサメタゾン(10nM)、β-グリセロフォスフェイト(10mM)を添加することによって間葉系幹細胞が骨芽細胞へ分化することがOCの分泌、Caの沈着によって確認された。また、組織内の細胞数を測定し、細胞一つ当たりのOCの分泌量、Caの沈着量を計算することによって、コラーゲン内での三次元培養の方が、培養皿上での二次元培養と比較して、有意に多くの細胞が骨芽細胞に分化していることも確認した。コッサ染色では細胞外マトリックスへのCaの沈着が認められ、細胞が骨芽細胞に分化していることが組織学的にも確認された。肉眼的には組織の強度が上昇している印象であった。 今回の検討では多分化能を持つ細胞を使用し、三次元培養で組織を作成する過程で、同時に目的とする細胞に分化誘導を行うという方法を用いた。培養皿上での二次元培養中に分化を誘導し、その後に組織を作成する方法と比較して、同方法では全体としての組織作成の期間の短縮がはかれると考えられる。その上、分化の効率も良いことが明らかとなり、組織工学の技術を用いて作成した完全に自己の材料からなる組織を作成する上で有用な方法となりうる可能性を示す結果であると考えている。
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