研究概要 |
悪性胸膜中皮腫は先進国で急増している悪性腫瘍であるが、従来の集学的治療の有効性が低く、新機序による治療が求められている。我々は高脂血症治療薬HMG-CoA Reductase Inhibitorであるロバスタチンの抗腫瘍効果に着目した。超免疫不全マウスであるNOD/SCID/γnull(NOG)マウスの左胸腔内にヒト悪性胸膜中皮腫ACC-MESO-1細胞を移植すると、8週間後に左胸腔内に原発巣、右胸腔内およびリンパ節に転移巣を形成した。ヒト悪性胸膜中皮腫が多発転移巣を形成するマウスモデルはこれまでにほとんど報告がない。このマウスに、ロバスタチン12,5mg/kgを週3回・8週間投与したところ、原発巣・転移巣ともに腫瘍増殖は抑制された。また腫瘍組織の免疫組織染色を行ったところ、オートファジーマーカーであるLC3とBECLIN陽性細胞が、ロバスタチン投与群において有意に多かった。また、In vitroにて、ロバスタチンはACC-MESO-1細胞のviabilityおよび遊走を抑制した。In vitro、in vivoでロバスタチンの作用機序を検討した結果、ロバスタチンによる抗腫瘍効果にはアポトーシスではなく、オートファジーが関与していることが明らかになった。またそれが代表的なオートファジー誘導経路であるmTOR経路ではなく、Rho/phospholipase C/inositol triphosphate経路を介するものであることをin vitroで明らかにした。これはスタチンの抗腫瘍効果の機序としては新規のものであり、抗癌治療の新しい標的経路となりうる。
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