本研究の目的は血行動態の悪化したST上昇型心筋梗塞(ST-segment elevation myocardial infarction : STEMI)に関する新たなアプローチを提案していくことであり、その理想的な治療法として、β-blockerを用いたactive rate controlによる梗塞サイズ縮小および二次予防効果と経皮的に挿入可能な左心補助装置であるImpella 5.0を用いた循環補助効果およびunloadingによる梗塞サイズ縮小効果を組み合わせたHibernation therapy (HT)を新たに考案し、ブタを用いた虚血再灌流モデルによりその効果を検証しました。方法は、雄ブタ9頭に対し左前下行枝を一時的に結紮・解除することで虚血再灌流モデル(2時間虚血、4時間再還流)を作成し、【A群】治療なし【B群】発症1.5時間後よりImpellaによる治療継続【C群】発症1.5時間後よりHTによる治療継続の3群に分け、1%Evans' blueおよび1%triphenyltetrazolium chlorideによる肉眼的組織評価により梗塞サイズの縮小効果を検証しました。その結果、梗塞率はA群:65.38±6.07、B群:39.66±11.16、C群:21.78±7.29と3群間で有意差(p<0.001)を認め、A-B群間(p<0.001)、A-C群間(p〈0.001)、B-C群間(p=0.006)においても有意差を認めたことからHTが最も有効であることが判明しました。食生活の欧米化に伴いSTEMIの発症年齢も徐々に若年化してきていることから、医療経済的側面を踏まえ、長期予後改善をもたらす本研究は急務と言えます。本研究により、SEMIにおけるHTの有効性および安全性が確認されたことは、学術的価値の高い研究としてだけではなく、社会的貢献が非常に高いものと考えます。
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