23年度は毛様星細胞腫における病理組織と遺伝子変異による診断の相関、ならびに客観性の有無を検討した。その結果、遺伝子異常の有無が、病理診断と比較し概ね妥当であることを確認した。この中で、BRAF遺伝子変化の見られなかった腫瘍について、毛様星細胞腫ではなく退形成星細胞腫と診断すべき症例を詳細に検討し、FAS遺伝子異常とP53遺伝子異常が重複したことで悪性化を来たしたことが示され、Neuropatholgy and Applied Neurobiology誌に発表した(筆頭著者)。また、悪性星細胞腫における抗がん剤抵抗蛋白であるMGMTについて、同遺伝子のプロモーターメチル化と同蛋白の発現レベルの間に正の相関があることを見出しJapanese Journal of Clinical Oncology誌に発表した(共著)。さらに悪性星細胞腫における細胞内シグナル伝達経路異常についての最近の知見を自験例も含めてreviewし、Cancers誌に報告した(共著)。その他、下垂体腫瘍の妊婦例に関し、抗利尿ホルモンが妊娠中に枯渇しがちなことから水分管理に十分な注意が必要であることをNeuroendocrinology Letters誌に報告した(筆頭著者)。 一連の業績は、悪性脳腫瘍に対し分子生物学的知見に基づいた診断を行うことで、生物学的特徴に基づいた治療戦略を練る上で有用な知見といえる。引き続き、分子学的変化が化学療法および放射線治療に関し、どのような反応を示すかについて検討している。特に、放射線治療に関しては近年2次性癌の発生頻度が高まってきているため、自験例を含めて遺伝子変異の検討を行っている。
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