これまでの研究にて、これまで未知であった下前頭回と上前頭回を連絡する神経繊維の同定に成功した。fiber dissection (FD)による新たな白質連合線維束の剖出・同定および従来の白質連合線維束との関連性についてホルマリン固定脳を用いて評価・検討し、FDにより得られた結果に基づき、生体内での白質連合線維束の走行状態を高磁場(3-tesla)MRIによるdiffusion tensor image-tractography (DTI-T)により描出し、さらにFDの結果と比較検討した。具体的に、8側の大脳を用いたFDにて、全検体において下前頭回(Brodmann領野44/45 : Broca area)と上前頭回外側野(LSFG)間に連合線維を剖出した。また53例の大脳病変を有さない右利き脳神経外科患者を対象に行ったDTI-Tにて、全例に本線維束を認め、4例のみ右側に認めなかった。さらに、本神経線維束は、左右大脳半球において左側偏位群、偏位なし群、右側偏位群が6:1:3の割合で有意差をもって左側に広く分布し、特に左側優位所見は男性に顕著であった。下前頭回後方は優位半球ではブローカ言語中枢に一致していることから、いわゆるBroca-LSFG pathwayの存在を明らかにしたと言える。また、この結果は言語機能ネットワークに重要な役割を担う弓状束の左右偏在性ならびに男女差を示した過去の報告と一致することからも本線維束が言語ネットワークに関係している可能性を示唆する。今後の脳神経外科手術における術中言語マッピングにより、本神経線維束とLSFGの機能について解明していく必要があると考えられた。 また、本神経繊維を含む前頭葉の深部に位置する病変に対する手術で得られる術野について、前頭葉牽引による影響を加味した解剖学的評価を行い、蝶形骨外側壁の骨削除が有用であることを示した。このアプローチは、優位半球において本神経線維の到達領域であるブローカ言語中枢の損傷を最低限に抑えることができると考えられた。
|