研究概要 |
脊髄損傷は障害者本人のQOLが大きく損なわれるのみならず、社会的負担も多大であり、毎年約5,000人の新規重症患者が発生することから、脊髄損傷後の有効な神経再生治療が求められている。近年、脊髄損傷に対してさまざまな細胞による神経再生が報告されているが、単種細胞移植療では効果が限定的である。一方、多種細胞移植の臨床応用に関しては、発ガン性や細胞採取における侵襲性をはじめとして、技術面・倫理面で克服すべき諸問題がある。そこで、多種細胞移植による相乗効果と自己由来による安全性を同時に満たす移植法として、自己嗅粘膜由来の嗅神経鞘細胞・神経前駆細胞など複数細胞種移植による神経機能改善の可能性を明らかにするため、下記の実験を行った。 嗅粘膜は自己から低侵襲で採取できる組織で、神経前駆細胞や、軸索伸長を支持する嗅神経鞘細胞を含んでいる。本実験では成体ラット嗅粘膜よりこれら細胞を含んだ分画を単離し、マトリゲルに播種して、3次元培養系を作製した。コントロールとして、呼吸粘膜由来細胞を播種したマトリゲルを用いた。3日間培養したマトリゲルに、新生ラット由来の大脳皮質スライスを接触させ、共培養系とした。大脳皮質からマトリゲル中に伸長してくる軸索の長さと本数を計測した。また培養液中に遊離される神経栄養因子をELISA法により定量した。 嗅粘膜由来細胞を含んだマトリゲル中に伸長してくる軸策は、呼吸粘膜由来細胞におけるそれより有意に長く、本数も増加していた。共培養中の上清には、神経栄養因子NT-3,HGF,GDNFが遊離された。一方BDNF,NT-4/5,NGF,CNTFはコントロールと有意差がなかった。NT-3は単独でも軸索伸長を促すことが認められた。一方、嗅神経鞘細胞はゲル内でシュワン細胞様形態をとり、軸策と接触して伸長していることが確認された。以上から、嗅粘膜由来細胞は可溶性の神経栄養因子と細胞接着の両面から軸索伸長を促進することが示唆された。
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