平成22年度は、悪性神経膠腫における腫瘍幹細胞制御のための標的遺伝子を検索することに費やした。悪性神経膠腫摘出標本から得た細胞塊から、腫瘍幹細胞の分離同定を行った。neurosphere法に加えフローサイトメトリー(FACS)を用いた方法にて腫瘍幹細胞を濃縮する方法を確立した。CD133陽性細胞に高発現する分子を同定するため、signal sequence trap法やmicroarray法にて、候補遺伝子を選択した。FACSを用いて候補分子の発現とCD133の発現との関係を解析し、CD133陽性細胞に高発現かつsphere形成能が高いBTSC4(特許申請予定のため仮名)を見出した。さらに、悪性神経膠腫におけるBTSC4機能的役割を検討するため、siRNA、shRNAによるノックダウンを行った。機能解析方法としては1)Transwellを用いたmigration、2)細胞増殖能の評価、3)Zymographyを用いたMMP-2/9活性の測定、4)免疫不全マウス胎児脳への移植による造腫瘍活性、増殖、浸潤能の評価を行った。その結果、BTSC4は細胞増殖には関係はないが、浸潤の抑制に影響を及ぼす分子であることを明らかにした。さらにBTSC4のsoluble isoformの機能的役割についても同様の検討を行い、soluble isoform BTSC4は浸潤を促進する分子であり、soluble BTSC4を発現させたグリオーマ細胞株は免疫不全マウス脳内で腫瘍形成が促進されていることを確認した。平成23年度は、悪性神経膠腫の治療ターゲットとなりうる分子としてsoluble isoform BTSC4が考えられる。悪性神経膠腫におけるBTSC4 isoformの阻害効果については現在確認中である。来年度はこの標的遺伝子を導入した間葉性幹細胞の作成と抗腫瘍効果について検討を行うこととする。
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