研究概要 |
1.小動物(ラット)を用い脳底部に設けた骨窓にcranial windowを設置し、人工髄液の灌流下(in vivo実験系)で脳底動脈の運動(血管径)を観察した。攣縮因子としてsphingosylphosphorylcholine (SPC)を人工髄液中に混入した(100μM)。 2.高コレステロール食(F1飼料に1%コレステロールと1%コール酸を添加)で飼育した高脂血症ラットを用いた実験ではSPCが引き起こす血管収縮と血清コレステロール値には正の相関が認められた(相関係数:0.736)。また、コレステロール除去剤(β-CD)を添加した餌で飼育した高脂血症ラットを用いた実験では、高脂血症により増強されたSPCが引き起こす脳血管攣縮は有意に抑制された(8.3±4.8%vs.36,4±7.9%,p<0.05)。 3.脳血管平滑筋培養細胞を用いて細胞内の非エステル化コレステロールをFilipin IIIで標識し、蛍光顕微鏡で観察した。 4.Filipin IIIを用いたコレステロールの標識の結果、非刺激下ではコレステロールは血管平滑筋細胞内にほぼ均一に分布していた。β-CD刺激(5mM)を行うと、細胞内のFilipin IIIによるコレステロールの標識がほとんど認められなくなった。 Filipin IIIを用いた実験結果からは本研究で使用したβ-CDがコレステロール除去剤として作用していることが示された。細胞膜のコレステロールは主にラフトと呼ばれる膜ドメイン構造に存在しており、今回の実験結果を総合するとSPC刺激が引き起こす脳血管攣縮の細胞内情報伝達がラフトに存在するコレステロールによって制御されている可能性が示唆された。今後は、高脂血症による血清コレステロールの上昇と血管平滑筋内のコレステロール含有量の変化を検討する必要があると考えられた。
|