近年、無症候性未破裂脳動脈瘤の発見が増加しており、未破裂脳動脈瘤の増大・破裂予防のために新たな侵襲が少ない薬物治療の開発が急がれている。本研究では、細胞増殖・分化の制御、細胞死に関与するサイトカインの一種であるTransforming growth factor-beta(TGF-β)に着目し、脳動脈瘤の薬物療法の分子標的としての可能性を検討するために本研究を行った。TGF-βは大動脈瘤の進展および破裂に深く関与していることが報告され、新たな大動脈瘤治療のターゲットとして期待されている。TGF-βの動脈壁に対する作用は、炎症性細胞の誘導抑制、平滑筋細胞の増殖分化、アポトーシスの誘導、コラーゲン、エラスチン等の細胞外器質産生促進など多岐に渡る。そのためTGF-βが大動脈瘤壁に対し修復的に作用するか破壊的に作用するかは不明である。脳動脈瘤に関してもヒトの脳動脈瘤壁を用いた遺伝子および免疫組織学的解析により、TGF-βの発現が家族性脳動脈瘤の発生や脳動脈瘤の破裂と関連する可能性が示唆されている。しかしTGF-βが脳動脈瘤壁に対し修復的に作用するのか破壊的に作用するのかを説明するには不十分である。申請者は新規マウス脳動脈瘤モデルを用い、TGF-βシグナルの下流にあるmatrix metalloproteinases(MMPs)が脳動脈瘤形成に深く関与することを明らかにしている。また大動脈瘤の基礎研究において、マウス大動脈瘤モデルにTGF-β中和抗体及びTGF-βレセプター(ALK5)阻害薬を全身投与し、TGF-β活性を抑制することにより大動脈瘤の発生及び破裂率が増加することを認め、大動脈ではTGF-β活性化が動脈瘤形成に抑制的に働くと考えられた。一方、ラットを用いた脳動脈瘤モデルにおいてTGF-βの遺伝子発現が脳動脈瘤形成の増大と共に上昇しており、今後この上昇が血管保護的か否かについて動脈瘤形成抑制作用が期待される薬物を用いて有効性との関連で明らかにする予定である。
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