研究課題
近年、無症候性未破裂脳動脈瘤の発見が増加しており、未破裂脳動脈瘤の増大・破裂予防のために新たな侵襲が少ない薬物治療の開発が急がれている。本研究では、細胞増殖・分化の制御、細胞死に関与するサイトカインの一種であるTransforming growth factor-beta (TGF-β)に着目し、脳動脈瘤の薬物療法の分子標的としての可能性を検討するために本研究を行った。昨年度までに、新規マウス脳動脈瘤モデルを用い、TGF-βシグナルの下流にあるmatrix metalloproteinases (MMPs)が脳動脈瘤形成に深く関与することを明らかにしている。また大動脈瘤の基礎研究において、マウス大動脈瘤モデルにTGF-β中和抗体及びTGF-βレセプター(ALK5)阻害薬を全身投与し、TGF-β活性を抑制することにより大動脈癌の発生及び破裂率が増加することを認め、大動脈ではTGF-β活性化が動脈瘤形成に抑制的に働くと考えられた。一方、ラットを用いた脳動脈瘤モデルにおいてTGF-βの遺伝子発現が脳動脈瘤形成の増大と共に上昇していた。本年度は、この上昇が血管保護的か否かについて動脈瘤形成抑制作用が期待される薬物を用いて有効性との関連を調べ、(1)動脈瘤形成頻度は時間経過とともに増加、(2)オルメサルタン投与によりこの頻度は有意に低下、(3)動脈瘤発生頻度の増加に伴い、TGFβおよび炎症性マーカーであるTNFαがともに増加、一方、olmesartan投与群では溶媒投与群に較べてTGFβはさらに増加したが、逆にTNFαは有意に低下した。これらの結果からTGFβは脳動脈瘤壁においても血管保護的に作用している可能性が示唆された。当初の研究計画以上の成果が得られ、現在著名な英文誌に投稿予定で、論文を作成中である。
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Acta Neurochir Suppl
巻: 11 ページ: 31-35