近年手術療法、画像診断、化学療法の進歩によりさまざまな悪性腫瘍患者における5年生存率は増加している。しかしながら、グリオブラストーマにおいては、有効的な治療法はなく、この20年間、生存率の改善はない。よってグリオブラストーマ患者の延命を目的とした新たな治療の開発が急がれる。本研究ではWnt signal inhibitor、特にREIC/Dkk-3のグリオブラストーマに及ぼす作用に注目し、その機序を解明することによりグリオブラストーマの新しい治療法の開発を目指すことである。 申請者はREIC/Dkk-3の低下が脳腫瘍の増殖に関係していることを見出し、また、REIC/Dkk-3 plasmidを遺伝子導入することによりREIC蛋白を過剰発現させると、ミトコンドリアを介したアポトーシスが誘導されることを明らかにし、脳腫瘍におけるWntシグナルの重要性を証明した。(Neuro Oncol. 2008 Jun ; 10(3):244-53)一方、脳腫瘍の悪性度が高くなるに従い、Wnt signalのレセプターであるLRP6の発現は増加し、grade IVではLRP6が強発現していることを見出している。Wnt signalの活性化の増減が腫瘍細胞の増殖、細胞死に強く関与していることが推察され、その詳細な分子機序を解明し、新しい治療の開発を目的に研究を進めた。まずREIC/DKK3遺伝子治療を行うことをふまえてアデノREIC/Dkk-3を用いて検討を行った。腫瘍細胞増殖抑制効果がAd REIC/Dkk-3によっても認められることを確認した。また、western blot解析により、腫瘍増殖抑制効果に対するLRP6の関与やapoptosis誘導に関与している分子の解析行った。apoptosis誘導に関連する分子やTUNEL染色からAd REIC/Dkk-3のapoptosis誘導作用を確認した。現在LRP6を含むWntシグナルの受容体発現とAd REIC/Dkk-3との相互作用について解析している。また、担癌状態のヌードマウスにAdREIC/Dkk-3の遺伝子導入を行い、抗腫瘍効果を調べる準備を進めている。
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