[具体的内容]昨年度の検討により報告者は、(1)予めマウスに亜鉛を投与することでピロカルピンを用いたてんかん発作後の海馬依存的な学習・記憶能力の低下が抑制されることを見出した。さらに報告者は、頭部外傷後のてんかん原性化と脳内亜鉛の関連について検討するため、(2)酸化ストレスとびまん性軸索損傷が惹起され、学習・記憶能力が低下した頭部外傷モデルマウスの作成に成功し、(3)これらの病態が脳梗塞急性期の治療薬であるエダラボンにより阻止されることも明らかにした。 [意義、重要性]てんかん治療の第一選択は薬物療法である。しかしながら、薬物療法が可能な患者においても、抗てんかん薬はその発作を抑えることはできるが、てんかん原性化を阻止することはできない。発作後の海馬領域における神経新生異常はてんかん原性化の主な要因であるが、てんかん患者にしばしば認められる学習・記憶能力の低下にも関与していることが示唆されている。今回報告者は、亜鉛投与により発作後の神経新生異常のみならず、学習・記憶能力の低下も抑制されることを見出した。この成果は、現在までに報告されていない全く新しい知見であり、臨床的ならびに学術的に重要な成果である。さらに報告者は、頭部外傷後のてんかん原性化についても検討するため頭部外傷モデルマウスを作成し、エダラボンによって外傷による酸化ストレス、びまん性軸索損傷、学習・記憶能力の低下が阻止されることを見出している。酸化ストレスは脳内亜鉛の正常な動態を変化させることが報告されているが、エダラボンはこの酸化ストレスを除去するラジカルスカベンジャーとして機能することが知られている。これらのことから、頭部外傷後のてんかん原性化と脳内亜鉛の関連を解明するための重要な手掛かりになることが期待できるという点で意義のある成果である。
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