本年度は、研究計画のひとつ、血清中癌細胞microRNA検出による癌の性質や存在の診断法の開発を中心に実施した。 (1)血清miRNA検出、およびその発現レベルと患者臨床情報の相関関係の評価 最近、悪性神経膠芽腫細胞の研究において、がん細胞がmRNAやmiRNAや血管新生促進タンパク質を含むエクソソームを放出し、がんの進行に関わる可能性が報告された。そのエクソソームは血清中で検出可能であり、エクソソーム中RNAの分析により、脳腫瘍細胞がもつ遺伝子変異を解析できることが明らかになっている。我々は、ヒト脳腫瘍細胞では、miR-222が高発現して、T細胞のがん細胞認識に重要なICAM-1の低下を介して、細胞傷害性T細胞による細胞傷害の感受性を低下させること、即ち抗腫瘍免疫応答における免疫効果相で免疫抵抗性をもたらすことを報告した。さらに、脳腫瘍患者血清から抽出したエクソソームはmiR-222を含んでおり、そのレベルは健常人血清に比較して有意に高く、また血清miR-222値は独立した予後因子であることが判明し、血清miR-222検出による脳腫瘍診断開発の可能性が示唆された。 (2)血清miRNAの存在形態、生理的機能の検討 さらに我々は、抽出したmiR-222を含有する脳腫瘍細胞由来のエクソソームが、樹状細胞に取り込まれ、樹状細胞上でも、T細胞活性化に重要なICAM-1を低下させる可能性を見いだした。つまり、がん細胞由来エクソソームは、がん組織で樹状細胞に取り込まれたり、リンパ管を介してリンパ節に流入して樹状細胞に取り込まれ、抗腫瘍免疫誘導の場として重要なリンパ節で、免疫誘導相でも抗腫瘍免疫誘導を抑制する可能性が考えられる。従って、がん細胞由来のエクソソームやそれに含まれるmiRNAは、担がん生体の免疫抑制病態に関与する可能性がある。
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