近年のがん研究の進展により、腫瘍幹細胞(brain cancer stem cell;BCSC)が、腫瘍の発生と維持に重要な役割を果たしていることがわかってきた。我々は、脳腫瘍より単離したBCSCに高発現する分子が、脳腫瘍根治における重要なかぎを握っているとの仮説に基づき、これらをターゲットとした分子標的療法の開発を目指している。すでに、我々は、macropharge migration inhibitory factor(MIF)がグリオーマおよびBCSCにおいて高発現していることを明らかにしており、本研究では、このMIFをターゲットとした脳腫瘍に対する分子標的療法の有効性の検討およびメカニズムの解析を行う。本年度は、グリオーマ患者組織から長期培養可能な複数のBCSC株の樹立に成功し、BCSCとしての性質(自己複製能、多分化能、腫瘍形成能)を有し、マウスへの移植においてglioblastomaに類似したphenotypeを示すことを確認した。さらに、定量PCR法を用いてMIFの発現を解析したところ、分離したBCSCに高発現していることを明らかにした。MIFは、炎症を促進するcytokineとして知られる一方、細胞増殖にかかわる分子として知られているが、BCSCにおいてMIFの発現をknockdownすることで、顕著な細胞増殖抑制効果を示すことを明らかにした。さらに、MIFの核内における機能とp53との相互関係を解析するため、glioma細胞から核タンパクを抽出し、免疫沈降法を施行することによりMIFがp53に結合していることを明らかにした。また、glioma細胞に対してsiRNAを用いてMIFをknockdownして、その核タンパクを用いてgel shift法を解析し、p53とMIFとの結合が増加することを確認した。今後はMIFをターゲットとした脳腫瘍に対する新たな分子標的療法の開発を目指して、in vivoでの脳腫瘍に対する抗腫瘍効果を検討する予定である。
|