研究概要 |
ヒストン脱アセチル化酵素SIRT1は強力な抗アポトーシス作用を有することで知られ,近年「長寿因子」として注目されている.しかし,癌など悪性腫瘍においては,その抗アポトーシス作用により腫瘍増殖を増強させ,悪性度に関与しているという報告がある.そのため,本研究を遂行するに当たって,まず良性および悪性骨軟部腫瘍組織45検体におけるSIRT1の発現についてリアルタイムPCR法による定量的な検討を行った.その結果,良性腫瘍である神経鞘腫(15検体)と比較して悪性腫瘍である骨肉腫(15検体)や悪性線維性組織球腫(MFH)(15検体)においてSIRT1の発現が有意に高いことが分かり,骨軟部腫瘍においてもSIRT1の発現が腫瘍の悪性度に関与していることが示唆された. この結果を踏まえ,SIRT1機能の選択的阻害が骨軟部肉腫細胞増殖に抑制的に作用する,と仮定し,SIRT1阻害剤であるSirtinol,SIRT1の発現を選択的に抑制する合成siRNAによるヒトMFH細胞株に対する抗腫瘍効果を細胞増殖アッセイによるin vitroの実験系で検討したところ,Sirtinol,SIRT1選択的siRNAともに濃度および時間依存性にMFH細胞の増殖能を低下させ,ヒトMFH細胞株に対してSIRT1の選択的阻害が抗腫瘍効果を持つことが明らかとなった.以上の結果から骨軟部腫瘍におけるSIRT1発現の重要性およびSIRT1を標的とした治療の有効性が示唆され,今後もin vitro,さらにin vivoでの検討を続ける予定である.
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