RIKEN Cell Bankより供与を受けたマウスiPS細胞を本実験に用いた。未分化維持培養したマウスiPS細胞の間葉系幹細胞(MSC)様細胞への分化を、胚様体形成を介さないdirect-plating法にて行った。その結果、未分化なiPS細胞から均質なfibloblasticな形態を持つdirect-plated cells(DPCs)を得ることができた。DPCsの細胞表面抗原をFACSにて解析したところ、mouse MSCと類似した表面抗原が陽性であることが明らかになった。DPCs細胞に骨・軟骨分化誘導を行ったところ、非常に高い骨・軟骨分化能を示すことが、RT-PCR・ALP活性・Alizarin red S染色・Safranin-O染色にて確認された。以上より、DPCsはMSCと類似した特性を有する細胞であることが示された。 ラット偽関節モデルを用いたin vivoでの骨再生の実験に関しては、現在進行中であるが、DPCを移植した群では非移植群に比べ、移植後6週後に骨癒合を認める傾向を示しており、DPCsはin vivoでも骨分化・骨再生能を有することが示唆されている。 従来、iPS細胞を骨や軟骨に分化させる方法は、一旦、胚様体を形成させるという特殊な培養方法を行わなければいけなかった。この方法では、大量のiPS細胞由来の骨・軟骨細胞を得ることは困難であり、非常に煩雑であり、結果も不安定であったため、将来のiPS細胞を用いた骨・軟骨再生への臨床応用の障壁となっていた。本研究は、胚様体形成を介さない"direct-plating法"を用い、効率的にiPS細胞を骨分化誘導させることに成功した世界初の研究である。本法で得られたDPCsにて、簡便な手技で骨芽細胞用細胞を大量に増殖させることが可能となり、優れた骨再生療法のsourceになりうると考えられた。 iPS細胞による骨再生医療が将来発展すれば、重症骨折の治療期間は短縮され、早期の機能的な改善・社会復帰が可能となり、患者に大いなる福音をもたらすこととなる。本研究により、iPS細胞の骨分化誘導技術に関する知見が大きく広がり、ひいては臨床応用への到達が加速することが強く期待される。
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