我々はこれまで2型糖尿病の存在は骨密度とは独立した骨折危険因子であり、また糖尿病の合併症に関わる終末糖化物質(AGEs)およびその受容体(RAGE)が、糖尿病患者の骨密度では推定できない骨脆弱性すなわち骨質低下を反映する指標であることを報告してきた。原発性骨粗鬆症では動脈硬化と骨密度が関連する「骨・血管連関」があることから、骨代謝異常の是正による糖尿病患者の動脈硬化疾患予防を最終目的に、両者に共通する病態を基礎および臨床の両面から検討した。 今年度の研究により、副甲状腺細胞に対するAGEsの添加実験系で分泌低下が示されているPTHにおいて、1)糖尿病では対照群より有意にPTH分泌低下があることを本邦で初めて明らかにし、かつオステオカルシンで示される骨形成の低下が共存した場合には、骨密度とは独立して骨強度の低下、すなわち骨質低下により椎体骨折リスクが増加することが臨床的に明らかにした(JCEM)。また2)骨形成抑制因子であるスクレロスチンの増加が、PTHとは独立して骨折リスク増加と関与することを見いだした(投稿中)。3)血管平滑筋を用いた細胞実験系において、AGEsはNADPH酸化酵素増加を介する酸化ストレス増加により血管石灰化が増強し、4)臨床的にX線写真を用いて定量化した腹部動脈石灰化量の増加が、骨密度とは独立して椎体骨折リスクと関係することを見いだした。一方、5)骨密度と血管石灰化に関連があるFetuin-Aは、腎機能低下のない糖尿病患者において骨密度と有意に正相関するが、透析患者と異なり血管石灰化とは有意な関連を認めなかった。 以上の研究成果は、2型糖尿病においてAGEs-RAGE系が糖尿病合併症のみならず「骨・血管連関」の病態形成に関与していることを示唆しており、AGEs-RAGE系への介入が2型糖尿病患者のあらゆる合併症を阻止する可能性が示唆された。
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