我々はSdのコスミドライブラリーを使用した詳細なゲノム解析を行った結果、Sd表現型の原因はトランスポゾン(ETn)挿入変異であり、ゲノムトランスジェニックマウスの作出によりETn挿入に隣接したsense/antisense遺伝子が原因領域であることを証明した。このsense/antisense遺伝子領域であるGm13336 (AK)/Ptf1aをETn挿入変異アレルで破壊しSd表現型に与える影響を検討した。まず我々が樹立したSd/+-ES細胞のAK/Ptf1a破壊マウスを作出したところSd表現型が消失することがわかった。これによりSd遺伝子はAK/Ptf1a遺伝子であることが判明した。しかし、このsense/antisense領域はそれぞれAKとPtf1aの転写産物を作ることより、ETn alleleで破壊したAK/Ptf1a領域にAKとPtf1aの転写産物をノックインすることでそれぞれのレスキューマウスを作出した。すると、Ptf1aの転写産物のレスキューマウスのみでSd表現型を再現することができた。次に、Ptf1a領域にlacZを挿入することで変異アレルからのPtf1a発現が、脊索、cloaca、中腎で発現していることがわかった。これは、発生時期の膵臓で主に発現するPtf1aが、Sd胚で表現型を示す原基で異所性発現することで脊椎欠損、鎖肛、腎臓欠損の原因となっていることを強く示唆した。またSd胚の発現プロファイリングをしたところ、Sd胚においてCdx2、T発現が有意に減少していることがわかった。そこで、野生型ES細胞にPtf1aを強制発現させたところ、Cdx2、TだけでなくWnt3a、Cyp26a1も減少させることがわかった。このことは、Sd発症メカニズムは、Ptf1aの脊索、cloaca、中腎での異所性発現によるCdx2シグナル経路の抑制が原因であることを強く示唆した。
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