研究概要 |
ドーパミン作動性神経系が下行性疼痛抑制系としての作用を有するかどうかを検討するため、成熟ラットの脊髄膠様質ニューロンにin vivoパッチクランプ法を適用し、脊髄後角におけるドーパミンの作用を解析した。,5~7週齢のラットをウレタン腹腔内麻酔下に椎弓切除術を行い、脊髄膠様質ニューロンからin vivoパッチクランプ法を用いて、電圧固定法により記録膜電位を-70mVに固定し、興奮性シナプス後電流(EPSC)を記録した。ドーパミン(100μM)を2分間灌流投与すると、外向き電流(細胞膜過分極)の発生ならびにEPSCの頻度・振幅の減少が観察された。外向き電流は記録した219ニューロン中155ニューロン(70.8%)で認め、平均振幅は19.5±1.6pA(n=64)であった。このドーパミンによる外向き電流は、細胞膜Gタンパク質阻害薬であるGDPβSおよびカリウムチャネル阻害薬であるバリウムによって有意に抑制された。また、この外向き電流はグルタミン酸受容体阻害薬やナトリウムチャネル阻害薬であるテトロドトキシンには影響を受けなかった。またドーパミンD1ライク受容体阻害薬であるSKF38393では抑制を受けなかったが、ドーパミンD2ライク受容体阻害薬であるスルピリドによって有意に抑制された。これらの結果から、ドーパミン投与による外向き電流の発生機序は、脊髄膠様質ニューロンにD2-like受容体が発現しており、その活性化により細胞膜Gタンパク質を介してカリウムチャネルが開口し、膠様質ニューロンの膜が過分極することによると判明した。また、テトロドトキシン存在下で微小興奮性シナプス後電流(mEPSC)はドーパミンの投与により、頻度の減少を認めた。このことから、ドーパミンは一次求心性神経終末部にも作用し、興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸の放出を抑制していることが判明した。以上から脊髄膠様質においてドーパミンはシナプス前・後の両方に作用し、疼痛を抑制している事が解明された。
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