視床下部弓状核に存在するAgRPニューロンとPOMCニューロンの骨代謝への影響を検討するために、ニューロン内転写因子として重要なJAK-STAT系のSTAT3とPI3K系のPDK1に注目した。AgRPニューロン特異的STA3およびPDK1ノックアウトマウスとPOMCニューロン特異的STAT3およびPDK1ノックアウトマウスを作成し、骨代謝解析を行った。1.Quantitative CTによる腰椎・大腿骨の解析結果(6週齢・12週齢) POMCシリーズのノックアウトマウスは骨格および骨量に異常を認めなかった。AgRPニューロン特異的STAT3ノックアウトマウスは骨量が増加を示し、PDK1ノックアウトマウスは骨量減少・四肢短縮を示した。AgRPニューロンが骨代謝調節機構に関与している可能性が示唆された。2.非脱灰標本の骨形態解析 AgRPニューロン特異的PDK1ノックアウトマウスは海綿骨で骨形成パラメーターが低下し、骨吸収パラメーターが上昇していた。骨形成速度も有意に低下していた。3.血液・生化学検査 骨代謝マーカーはBAP・TRACP5bが上昇しており高回転型を示した。また、尿中カテコラミン量が上昇しており、交感神経の活性化による骨量低下の可能性を示唆した。また、血清IGF-1が低下していた。4.間葉系幹細胞の骨芽細胞分化・増殖能 大腿骨骨髄由来間葉系幹細胞の骨芽細胞分化・増殖能は正常であったことからAgRPニューロンによる骨代謝調節機構は中枢から交感神経を介したものと考えられた。視床下部弓状核AgRPニューロンは摂食・エネルギー代謝のみではなく骨代謝調節を行っていることが示唆された。
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