われわれは、翻歯類さらに霊長類脊髄損傷モデルを用いて神経幹細胞(NS/PC)移植の有効性を報告してきたが、その作用機序には不明な点が多かった。本研究で研究者は、先天性脱随マウスのshiverer mutant(shi)マウス胎仔由来NS/PCをマウス損傷脊髄へ移植し、その後に機能回復が得られるか検討することで、移植細胞による再髄鞘化の重要性を検討することを目的とし研究を行った。方法としては、自然発生の髄鞘蛋白質遺伝子変異により正常な髄鞘を形成しないshiマウスの胎仔線条体からNS/PCを採取し(shi-NS/PCs)、野生型マウス神経幹細胞(wt-NS/PCs)との比較をin vitro、in vivoで行った。in vivoではマウス脊髄圧座損傷モデルへ損傷後9日目に両NS/PCsを損傷部へと移植した。対照群にはPBSを注入した。移植後6週まで後肢運動機能評価を行い、電気生理及び組織学的検討を行った。実験結果として、in vitroにおける検討ではshi-Ns/Pcの増殖・分化能及び栄養因子の遺伝子発現はwt-Ns/PCsとほぼ同様であったが、成熟oligodendrocyteへの分化はみられなかった。in vivoの検討では免疫電顕でshi-NS/PCsは不完全な薄い髄鞘のみ形成したがwt-NS/PCsは正常に近い髄鞘を形成した。後肢運動機能評価では、shi群に移植後早期の若干の機能回復を認めたが、対照群との比較で有意差は無く、wt群ではshi群との比較で有意な機能回復が確認できた。電気生理学的検査では、脊髄損傷直後、細胞移植直後、損傷後6週に、運動誘発電位(MEP)で評価した。本条件において、脊髄損傷直後、細胞移植直後には測定できなかったMEPが、観察最終時点の細胞移植後6週では、両細胞移植群で測定可能であった。shi群では、潜時の遅延、および振幅の縮小をwt群との比較では確認することができた。 本研究結果から、正常に近い髄鞘を形成するwt-NS/PCs移植で、髄鞘形成が不完全なshi-NS/PCs移植との比較で有意な機能回復が得られたことから、移植細胞による再髄鞘化が機能回復において重要性な働きをしていることが示唆された。髄鞘形成細胞移植による機能回復も現在検討中である。
|