本研究では、神経堤由来の細胞を標識するトランスジェニックマウス(PO-Cre/Floxed-EGFP)に脊髄損傷モデルを作成し、損傷脊髄内におけるシュワン細胞の動態を評価することが目的である。損傷モデルを作成する前に、PO-Cre成体マウスの正常脊髄におけるGFP陽性細胞の分布を評価した。その結果、脊髄後索におけるGFP陽性線維のうち、99.6%がPT97陽性の神経線維であり、そのうち88.6%がParvalbumin陽性の固有受容感覚神経線維であった。また脊髄後角において、大部分のGFP陽性の神経軸索がCGRP陽性の侵害受容性神経線維と一致していた。発生学的に、後根神経節由来の神経線維が脊髄に侵入することによってこれら感覚神経線維が生じることが知られている。従って、PO-Creマウスの正常脊髄でGFP陽性の神経線維が多数認められるのは胎生期に侵入してきた感覚神経線維であることが確認された。次にPO-Creマウスに対して脊髄損傷を起こすと、GFP陽性細胞が多数流入してくることが分かった。これは、損傷部に隣接する神経根より侵入する様子が組織学的にとらえられた。またflow-cytometryにて損傷後の血液中のGFP陽性細胞の有無を調べたが存在しなかったため、血液中から損傷部へ流入する可能性は否定された。さらに、侵入するGFP陽性細胞数は経時的に増えていくことが分かった。現在はこの細胞のcharacterizationを行っており、損傷脊髄においてどのように振る舞うかを今後評価する予定である。
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