研究概要 |
我々はこれまでに、コモンマーモセットES細胞およびiPS細胞を複数ライン樹立した(Sasaki et al,Stem Cells,2005,Tomioka et al,Genes Cells,2010)。また、共同研究者の岡田らによって確立された方法で、マウス/ヒト ES細胞を神経幹細胞へと分化誘導し、培養することに成功している(Okada,et al,Stemcells,2008)。この方法をもとに、我々が樹立したコモンマーモセット ES/iPS細胞から胚葉体(Embryoid Body;EB)形成を介して神経幹細胞へと分化誘導する方法の開発を行った(Shimada et al,in preparation)。その結果、EB形成の際に、BMPのマスキング因子であるNogginと同様の生理活性を持つDorsgmorphin、あるいは、レチノイン酸を加えることにより、ニューロスフェア形成劾率が上昇することが示された。得られたニューロスフェアは、一次ニューロスフェアから二次ニューロスフェア、三次ニューロスフェアへと継代することが可能であり、自己増殖能を持つことが示された。それぞれのニューロスフェアを10日間、接着培養し、神経細胞へと分化させ免疫細胞染色により分化傾向を解析したところ、一次ニューロスフェアからは主にニューロンが、二次ニューロスフェアからは、ニューロンに加えてアストロサイトが生み出されることが明らかとなった。これは、中枢神経系の発生において、まずニューロンが産生され、遅れてグリア細胞が産生される現象を、in vitroで再現しているものと考えられる。さらに培養方法を改良することで、オリゴデンドロサイトへの分化誘導も可能となった。 本研究により得られたコモンマーモセットES/iPS細胞由来神経幹細胞を、霊長類であるコモンマーモセット脊髄損傷モデルに移植する同種間移植により、詳細に神経幹細胞移植の有効性、特に安全性を評価することが可能である。霊長類での同種間移植である本研究は、臨床応用へ向けて、前臨床研究として極めて重要であり必要不可欠である。霊長類の脊髄損傷モデルを確立しているのは、世界で唯一我々のグループのみであり、脊髄損傷への神経幹細胞移植治療の臨床応用の実現は、本研究によるところが大きい。
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