研究概要 |
変形性関節症(OA)の軟骨破壊に重要な役割を持つADAMTS-4および5が同定されたが,その遺伝子発現調節機構は未だ解明されていない.本研究では,ヒト軟骨組織を用いて当該酵素遺伝子の発現調節機構を詳細に検討し,ヒト軟骨破壊の制御を可能にする新規薬剤開発の基盤となる研究を行うことを目的とし検討を行った. OA患者に施行された人工関節置換術時に得られた軟骨組織を実験に用いた.組織を適当な大きさにそろえ48時間培養後,MAP kinaseの一群であるERK上流に位置するMEK1/2に対する特異的阻害剤(U0126)で前処理し,4時間および24時間IL-1で刺激した.また,同阻害剤の効果を確認すべく,IL-1刺激20分後に細胞質画分を抽出し,ERKのリン酸化を抗p-ERI(抗体を用いてWestern blot法により検討した.ADAMTS-4または5により切断されるaggrecan断片は抗ARGS neo-epitope抗体によるWestern blot法により評価した.ADAMTS-4および5遺伝子発現はrealtime-PCR法により測定した. IL-1刺激により誘導されるERKのリン酸化は,U0126の前処理により濃度依存的に阻害されることを確認した.U0126によりERK経路を遮断すると,IL-1刺激により惹起されるaggrecanの切断は有意に促進し,軟骨破壊が亢進することが明らかとなった.ADAMTS-4および5遺伝子発現はIL-1刺激により一過性に上昇し,U0126前処理によりADAMTS-5遺伝子発現が有意に増強することが判明した. 以上の結果より,炎症刺激により活性化されるERK伝達経路は,軟骨分解酵素ADAMTS-5の抑制経路であると考えられる.すなわち,ERK経路の活性化は,軟骨破壊の制御に重要な役割を持つことが強く示唆され,OAに対する新規薬剤の標的になり得るものと期待される.
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