研究概要 |
高齢化社会に伴い患者数増加の一途をたどる変形性関節症(OA)に対する根本的な治療法は無い.OA病態形成における軟骨破壊に重要な役割を持つADAMTS-4および5が同定されたが,その遺伝子発現調節機構は未だ解明されていない.平成22年度の研究により,ヒト軟骨組織を炎症性サイトカインであるIL-1で刺激すると当該酵素の発現誘導に伴い軟骨組織破壊が惹起されることを確認した.この際に活性化される細胞内伝達経路であるERKのリン酸化を特異的阻害剤で阻害すると,当該酵素の発現増強し,軟骨破壊も促進し,OAの関節破壊にERK経路が抑制的に働いている可能性が考えられた.そこで平成23年度は,in vivoにおけるERKの役割を検討すべくマウス変形性関節症モデルを用い,同経路の役割を検討するとともに,他の細胞内伝達経路(p38およびNFkB)の軟骨破壊への関与をヒト軟骨組織を用いて検討した. ERK経路のin vivoの役割を検討する前に,マウス軟骨を用いヒト軟骨と同様の検討を試みたところ,マウス軟骨において同経路は,ヒト軟骨と相反し,軟骨破壊を促進する経路であることが判明し,同モデルがERK経路を標的としたヒト軟骨破壊機構を解析するには妥当でないと判断した. ヒト軟骨組織を用いて,p38およびNFkB経路を特異的な阻害剤を用いて検討したところ,p38およびNFkB阻害剤ともにIL-1により誘導されるADAMTS-4および5発現を抑制し軟骨破壊を阻害したが,NFkBを阻害した方がp38を阻害した場合に比べその効果が強かった. 本研究成果により,ERK経路は当該酵素発現に対し抑制効果を示す一方,NFkBおよびp38経路は促進させるといったヒト軟骨破壊を調節しうる細胞内伝達経路が明らかとなり,本研究成果は,今後の当該病態形成を制御し得る新規薬剤開発の基盤になるものと期待される.
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