研究所年度の平成22年度は関節軟骨からタンパク分解酵素を含む種々のタンパクをどのような条件で抽出するかについて種々の試行を繰り返した。研究当初はタンパク抽出液をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で軟骨組織を破砕することで容易に得られると見込んでいた。しかし予想に反してこの方法で得られるタンパクは全体の一部であり、組織中のタンパクを定量するためにはタンパクごとに適切な抽出方法を選択する必要があることが明らかとなった。このため種々の方法を試み、結果としてPBS、0.1% Triton添加PBS、6Mグアニジン塩酸溶液の3段階で抽出する方法でおおむねどのタンパク分解酵素についても許容しうるレベルで抽出が可能なことが明らかとなった。 この方法で本年度はOA軟骨からのタンパク抽出液を解析した。この解析は現在まだ一部しか終了していないが、10症例のOA軟骨の肉眼的な変性部と非変性部を比較したところ、プラスミンの活性は非変性部において有意に亢進していることが明らかになった。プラスミンは自身が強力なタンパク分解酵素として働くほかMMPの活性化を促すことによっても軟骨基質の変性・消失を推し進める。このことは従来着目されてこなかった軟骨変性のメカニズムの一つであり、本研究課題では今後これに関連した因子の解析も行う予定である。具体的にはプラスミンの活性化に関与するウロキナーゼの発現とウロキナーゼの活性を抑制するPAI-1などSERPINの発現レベルを対照軟骨とOA軟骨、さらにOA軟骨の軟骨変性部と非変性部とで対比検討することを予定している。
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