麻酔科医師は他科の医師と比べて薬剤を直接扱うことが多く、なかでも吸入麻酔薬であるセボフルランは麻酔の維持薬として広く使用されている。セボフルランは体への蓄積性がなく、臨床上長期にわたって使用されることがないため、慢性毒性の評価はほとんど行われていない。しかし、麻酔科医師や看護師、臨床工学士などは慢性的にセボフルランに曝露している可能性があり、産業衛生学的な観点からセボフルランめ慢性毒性を評価することは極めて有用であると考えられる。今回、慢性毒性の指標の一つである遺伝毒性影響についてコメットアッセイを用いて調査した。 対象は麻酔科医師53名と事務系職員37名で、末梢リンパ球を用いたコメットアッセイと自記式質問票を用いた調査を行った。コメットアッセイはDNA損傷の程度を示すと言われる尾の長さ(tail length)を視覚的に5段階(0点-尾がない状態、4点-DNAがほぼ尾の中にある状態)に分類し、各対象でランダムに100個ずつリンパ球を測定してその合計点を算出した。また質問票の結果について解析し、コメットアッセイとの関連性を統計学的に分析した。 麻酔科医師の内訳は男性25名女性28名、.平均年齢39.5歳、うち喫煙者は3名であった。事務系職員は男性15名女性22名、平均年齢は40.7歳でうち喫煙者は10名であった。2群間で年齢や性別、身長、体重などに有意差はみられなかったが、喫煙者数で有意差を認めた。また遺伝毒性を生じることが知られている化学療法や放射線療法、石綿や有機溶剤等への接触について2群間で有意差はなかった。喫煙者を除外し非喫煙者のみで分析したところ、2群間でコメットアッセイの合計点に有意差は見られなかった。 麻酔科医師におけるコメットアッセイに影響を与える因子について分析中だが、現在のところ確認できていない。
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