当院IRBの承認後、42名の健康成人男性を対象とした研究を行った。呼吸困難は、(1)吸気抵抗に負荷をつけて呼吸努力感を、(2)一回換気量を制限することで空気飢餓感の2種類を発生させた。疼痛は、コントロール、2種類の呼吸困難刺激時に左足を氷水につけるcold-pressor testにて発生させ、VAS (Visual Analogue Scale)で評価した。また、疼痛閾値時間(PTT : Pain Threshold Time)、疼痛忍耐時間(PET : Pain Endurance Time)を測定した。今までの報告からPETが2分の場合は疼痛高感受群(PT : pain-tolerant)、それ以外の場合を疼痛低感受群(PS : pain-sensitive)の2群に分類した。どちらの呼吸困難刺激時においても疼痛低感受群ではPETの延長、VAS値の立ち上がりの軽減、疼痛高感受群ではVASの最高値の低下が認められ、2種類の呼吸困難感により疼痛緩和作用が得られた。疼痛高感受群におけるPTTの延長に対する2種類の呼吸困難の効果に違いが認められ、呼吸努力感、空気飢餓感による鎮痛作用の機序は異なることが示唆された。本研究の成果により、呼吸困難刺激による鎮痛方法としての呼吸トレーニング法の開発に向けた臨床研究を計画することができる。一時的には強度の痛みが発生するも短時間で収まる場合などは鎮痛薬を用いた場合に副作用が問題となることもあり、新たな鎮痛方法の開発は非常に重要であると考えられる。また、がん終末期などは、疼痛に加え呼吸困難感も合併している場合にはオピオイド製剤の使用に伴うリスクが上昇する可能性もあり、安全な鎮痛薬の使用方法の検討にも非常に意義があると考えられる。
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