研究概要 |
疹痛の知覚は体性感覚刺激の物理量だけでなく様々な認知機能の影響を受ける。本研究では疹痛知覚に影響を与える認知機能のうち最も影響の大きい"注意"機構に着目し、これまで我々は視覚と疹痛の相互作用を明らかにしてきたことから痛みに対する"注意"を視覚情報の錯覚性認知を利用して定量化する方法の開発とその大脳メカニズムを解明することを目的としている。 I11usory line motion(線運動錯視)と呼ばれる視覚刺激の錯覚性認知を利用した左右半空間に分布する"注意"の評価方法を定量化する方法の開発を行った。 17inchビデオモニターの正中に2cm×2cmの固視点と、固視点から10cm上方で左右15cm外側に直径1cmのcueを2個表示する。続いて左あるいは右のcueの一方が消えてから0ミリ秒,33ミリ秒,66ミリ秒,100ミリ秒,150ミリ秒,200ミリ秒,300ミリ秒の間隔(cue lead time)を空けて両cueがあった場所を結ぶ幅1cmの直線を提示する。上下肢の左右のいずれかに持続痛を有する患者を対象に、提示された直線が左右のどちらから線が引かれたように感じたかを回答させた。右と回答した確率とcue lead timeの関係性をプロビット解析によってシグモイド関数として表現し、右回答確率50%の際のcuel eadtimeの偏位を"注意"の偏位として定量化した。健常者は3.8±6.2ミリ秒,左疼痛患者は47.3±41.1ミリ秒,右疼痛患者は-40.3±43.1ミリ秒(Kruskal-Wallis test,p<0.05)と注意方向が患側に偏位していた。この注意の偏位は、脊髄刺激療法による左右患肢への内的刺激によって中和あるいは増強されることも明らかにし、この際、注意の偏位は脊髄刺激による物理的電圧量ではなく主観的刺激感覚に依存していた。
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