疼痛の知覚は体性感覚刺激の物理量だけでなく様々な認知機能の影響を受ける。本研究では疼痛知覚に影響を与える認知機能のうち最も影響の大きい"注意"機構に着目し、これまで我々は視覚と疼痛の相互作用を明らかにしてきたことから痛みに対する"注意"を視覚情報の錯覚性認知を利用して定量化する方法の開発とその大脳メカニズムを解明することを目的としている。Illusorylinemotion(線運動錯視)と呼ばれる視覚刺激の錯覚性認知を利用した左右半空間に分布する"注意"の評価方法を定量化する方法の開発を行った。具体的には、モニターに提示した左右2つのcueのうちいずれか一方を消去し0-300ミリ秒の感覚(cueleadtime)を空けて両cueがあった場所を結ぶ直線を提示し、そその直線が左右のどちらかから引かれたかを回答させる。Cueleadtimeを変化させることによって注意分布の強さを定量することができる。この方法を用いてこれにより上下肢の左右のいずれかに持続痛を有する患者を対象に、線運動錯視から"注意"の偏位を定量化した。さらに患肢および健肢に対する電気刺激を用いて疼痛に対する注意が体性感覚刺激方向に中和・偏位(増強)することを複数の条件で調査し、このような注意の偏位は体性感覚刺激の物理的電圧量ではなく主観的に知覚される体性感覚経験の大きさに依存することを明らかにした。また、主観的に知覚される体性感覚経験の大きさと自発痛の左右バランスによって注意の方向、大きさが変化することも併せて明らかにし、体性感覚系における注意分布は自発痛と体性感覚刺激が同じ効果を与えることを示した。このような注意分布における脳機能画像研究を、前頭葉近赤外線スペクトロスコピーを用いて評価した。
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