研究概要 |
Ca2+パラドックスは細胞外Ca2+濃度を一度低下させたあと、元の濃度に戻した際に急激な細胞内Ca2+濃度の上昇に伴う細胞の過拘縮を来す現象であり、虚血再灌流時の細胞傷害を多くの共通する特徴をもつため、虚血再灌流傷害を検討するための良いモデルとして長年注目されている現象である。我々は、マウス心筋細胞におけるCa2+パラドックスが細胞内Ca2+ストアである筋小胞体内Ca2+含量の減少によって活性化される、TRPC (transient receptor potential canonical)チャネルを介するCa2+流入が原因であると突きとめた。 平成23年度は、Ca2+パラドックスに対する吸入麻酔薬セボフルランの抑制効果とその抑制メカニズムを調べることで、その心筋保護作用に関わる分子基盤を解明することを目的とした。 単離マウス心室筋細胞にそれぞれ細胞内Ca2+濃度、あるいは筋小胞体内Ca2+濃度を反映するCa2+蛍光指示薬であるfluo-3、あるいはmg-fluo-4を負荷させ、共焦点レーザー顕微鏡を用いてのCa2+イメージング解析を行い、Ca2+パラドックス発生の検討を行った。またパッチクランプ法(細胞膜に存在するチャネルの電流を直接記録する方法)を用いてTRPCチャネル電流に対するセボフルランの効果を検討し、以下の点を明らかにした。 1.1-5%のセボフルランはCa2+パラドックスの発生を濃度依存性に抑制した(IC50=0.14mM、約1.0%), 2.セボフルランのCa2+パラドックス抑制メカニズムは、 (1)TRPCチャネル電流の抑制作用、 (2)TRPCチャネル活性化の引き金となる筋小胞体内Ca2+含量の減少に対する抑制作用、を介している。
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