手術後に認める循環不全における“末梢神経系”の役割は不明である。我々は末梢知覚神経に存在するTRPV1受容体のノックアウト(KO)マウスと、Wild type (WT)マウスの比較実験を今年も引き続き行った。出血性ショック蘇生後24時間の生存率(Wild typeで20%、KO typeは70%)に寄与するTRPV1の機序として、昨年は心機能に着目し、動物用超音波検査装置を用いた検討を行い、KO群ではショック後早期から駆出率の改善効果が、さらに後期には心拍出量がWT群に比べて有意に改善することを確認し、TRPV1の心機能への関与が示唆された。本年度はまず末梢循環動態評価として、① Blood flow meter FLO-N1を用いた血流測定と、②Evans blueを用いた血管透過性の変化を検討した。通常出血性ショックにより血流は低下し、血管透過性は亢進するが、KO群ではショック後早期から、腎臓での血流低下と血管透過性亢進が有意に抑制された。さらに下大静脈血流の低下も抑制される結果を得た。下大静脈の血流低下が抑制されることで心拍出量の改善効果につながると考えられた。 腎臓において血流ならびに血管透過性に差が認められたため、組織学的評価を行った。腎臓組織の①組織学的変化、②TRPV1受容体の発現分布、③TRPV1受容体から分泌される神経伝達物質の分布をそれぞれ検討したが、結果として両群間に明らかな差を認めることはできなかった。 以上の結果をもって、今年度5月に開催された国内学会(日本外科学会)および6月にU.S.A.(San Diego)で開催される国際学会(Annual Conference On Shock)において発表するとともに、論文作成と投稿を行う予定である。
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