【研究の目的】 ペースメーカーチャンネルとしても知られているHCNチャンネルは、神経因性疼痛においてビリビリとした痛みを引き起こす自発活動電位をコントロールしている。本研究では、神経損傷時の中枢神経系におけるHCNチャンネルの働きを明らかにし、特に遺伝子多型に注目して、そのチャンネル機能を制御することによって自発活動電位を抑え、神経因性疼痛の遺伝子治療に応用することを目的する。 【本年度に実施した研究の結果】 これまでの予備実験の結果、細胞内サイクリックAMP濃度によって、ペースメーカーチャンネルのグリコシル化の程度が変化し、その結果、細胞膜での働きが変化することによって神経の活動性が低下することが示唆されていた。そこで我々は、動物実験モデルで同様の現象を確認するために、以下の実験を行った。 ラット脊髄神経結紮モデルにおいて、脊髄神経結紮時にくも膜下腔にカテーテルを挿入し、そこから術後7日目、8日目、9日目に細胞内サイクリックAMP濃度を変化させる薬物を反復投与した。細胞内サイクリックAMP濃度を上昇させるフォルスコリンを投与した場合には、術後13日目にフォンフライに対する逃避行動域値が上昇した。一方で、細胞内サイクリックAMP濃度を減少させるSQ22536を投与した場合には、疼痛行動に変化は認めなかった。この時点での脊髄におけるペースメーカーチャンネルのグリコシル化の程度をウエスタンブロットで確認することが必要であるが、神経の活動性の低下が、痛み行動の減少につながったと考えられた。 本年度に施行した、これらの実験から、フォルスコリン、SQ22536という薬物によって細胞内サイクリックAMPが変化し、これにより疼痛行動が変化することが明らかになった。本年度はこれらの結果について、日本疼痛学会、及び米国麻酔学会にて発表を行った。
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