【目的】活性化マイクログリアが産生するサイトカインや一酸化窒素(NO)は脳障害増悪に関与する。よって、脳低温療法はマイクログリアからのこれらの神経傷害性因子産生を軽減し、脳保護効果をもたらす可能性がある。マイクログリアに発現するToll様受容体(TLR)は損傷細胞から遊離・放出される内因性物質によって活性化される。本研究では、TLR2活性化マイクログリアの炎症性・抗炎症性サイトカインとNO産生ならびに核内転写因子NF-κB活性化に低温・高温が及ぼす影響を調べた。 【方法】新生仔ラット脳より単離したマイクログリアをTLR2活性化剤(Pam_3CSK_4)で刺激し、33-37-39℃下で48時間まで培養した。培養上清中のサイトカイン(TNF-αおよびIL-10)産生量はELISAにて、NO産生量は比色法にて、また、核内NF-κBp65活性化はELISAにて、それぞれ測定した。 【結果】TNF-α産生は3-6時間、IL-10産生は24-48時間、NO産生は48時間、また、NF-κBp65活性化は0.5時間で、各々、37℃に比べ33℃では低値、39℃では高値を示した。 【結論】低温はTLR2活性化マイクログリアのNF-κB活性化とその後の早期におけるTNF-α、後期におけるIL-10およびNO産生を抑制した。よって、脳低温療法による脳保護作用の一機序に、マイクログリアのNF-κB活性化阻害を介した早期での炎症反応抑制と後期での炎症・抗炎症反応抑制が関与することが示唆された。高温はマイクログリアのNF-κB活性化とTNF-α、IL-10およびNO産生を増加させた。これらの時系列的温度依存性変化は、低温下での脳保護効果および高温下での脳障害増悪における病態把握に、TNF-αが早期の、IL-10/NOが後期の、重要なマーカーになりうることを示唆する。
|