研究概要 |
我々はこれまでにATP感受性K^+(K_<ATP>)チャネルが一次知覚ニューロンの細胞膜上に発現し,神障害性疼痛の病態機序に関与することを報告している(Proc Natl Acad Sci USA ; 2009)。K_<ATP>チャネルは細胞膜上ばかりでなく,核膜のも存在することが示唆されているが,後根神経節(DRG)細胞においてはその発現や機能的役割は不明である。K_<ATP>チャネルは,チャネルのポアを形成するKir6.0(Kir6.1またはKir6.2)とスルホニル尿素受容体(SUR1またはSUR2)からなる異種八量体である。そこでまず核膜K_<ATP>チャネルの存在および構成分子を免疫組織染色法で検討した。その結果正常ラットから摘出したDRGの細胞膜にはSUR1(約70%)が,核膜にはSUR2(約75%)が主に発現していた。ポア成分としては両チャネルともKir6.2のみが発現していた(Kir6.1の発現は認められなかった)。一方,神経障害性疼痛(SNL)モデルラットから摘出したDRGでは,正常ラットと比較してその構成分子種に違いがなかったもの,SURおよびKirともにその発現頻度は有意に低かった。次に酵素法により単離したDRG細胞体を遠心分離で洗浄した後,核単離キットを用いて核を抽出した。単離した核(直径10μm前後)よりパッチクランプ法のInside-outモードで単一チャネル電流を測定した。ATPフリーの条件下での測定で,正常ラットDRGニューロンから単離した核膜では単一チャネルコンドクタンスが52.7pS(n=6)および152.4pS(n=6)の2種類のK^+電流が確認された。また,神経障害性疼痛モデルラットDRGニューロンから単離した核膜においても同様のATP感受性を持つK^+電流が認められた(コンダクタンス:56.7pS(n=8)および166.5pS(n=6))。これらのK^+電流がK_<ATP>チャネルによるものかどうかは今後の課題である。以上の結果より,ラットDRGニューロンの核膜にはK_<ATP>チャネル(SUR2/Kir6.2)が存在し,神経障害性疼痛モデルラットではその発現は減少することが示唆された。このことから核膜K_<ATP>チャネルは神経障害性疼痛の病態機序に関与する可能性が考えられた。
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