研究概要 |
我々は,一次知覚ニューロンの細胞膜上あるいは核膜上に存在するATP感受性K^+(K_<ATP>)チャネルの神経障害性痛の薬物治療の標的としての可能性を検討した。まず行った免疫組織染色試験では,神経型K_<ATP>チャネルの主要サブユニットであるスルフォニル尿素受容体1の発現が後根神経節細胞(DRG)の細胞膜と核膜の両者に確認され,その存在を明らかとした。次いで,バッチクランプ法にてそれぞれのチャネルの電気生理学的特徴を検討した。DRG細胞は酵素法によって,DRG核は核単離キッドを用いてそれぞれ正常ラットと神経障害性痛モデル(SNL)ラットから単離した。その結果,正常およびSNL群の両者のDRG細胞でATP濃度に感受性のあるKイオンチャネルが細胞膜上に確認され,両群間で単一チャネル特性に差異は認めなかった。一方,核膜上にもATP濃度に感受性を示すKイオンチャネルが確認されたが,そのコンダクタンスは約20-140pSまでの広い範囲のものが記録された。そのために核膜K_<ATP>チャネルに選択的な薬物感受性を検討することは現時点では困難と考えられた。また,神経ステロイドのAllopregnanolone(AP)にもチャネル活性化作用が認められた。そこで,細胞膜K_<ATP>チャネルに最も感受性が強かったDiazoxideおよびAPを用いてin vivoで神経障害性痛に対する鎮痛効果を確認した。正常ラットにおいては,DiazoxideおよびAPの投与は,非投与群と比較して痛覚域値および運動能に明らかな変化を示さなかった。一方,SNLラットにおいては,DiazoxideおよびAPの投与により有意な鎮痛効果が認められた。以上の結果から,一次知覚ニューロン細胞膜あるいは核膜に存在するK_<ATP>チャネルは,正常およびSNLラットで機能的に発現し,薬物治療の標的となる可能性が示唆された。
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