予測できない虚血イベントに対しても応用できる可能性があるため、有効な薬理学的ポストコンディショニング(ポスコン)法の開発は臨床的に非常に有用である。しかし糖尿病患者や高血糖状態においては、プレコン、ポスコンによる心筋保護作用が減弱することが報告されている。糖尿病患者の虚血性心疾患発生のリスクは高いため、糖尿病患者や高血糖状態に影響を受けない薬理学的ポスコン法を確立することは臨床応用するために必須である。高血糖状態においては、主に細胞内酸化ストレス、PKC活性化抑制、K_<ATP>チャンネル開口障害が心筋保護効果減弱の機序とされている。Rho-kinase阻害薬である塩酸ファスジル(FH)は脳血管攣縮に対して臨床使用されているが、近年冠動脈疾患に対しても有用であるとされている。PI3Kinaseに作用してポスコン作用を発揮すると考えられているが、高血糖の影響に関しては検討されていない。急性高血糖ラット心筋虚血再灌流モデルにおけるFHの心筋ポスコン作用について検討を行った。SDラットを対象とし、左冠動脈前下行枝を30分間閉塞したのち、120分間の再灌流を行った。FH 0.5mg/kgを再灌流開始時に静脈内投与し、対照群と心筋梗塞サイズを比較した。また急性高血糖ラットモデルを作成し同様に検討を行った。FH 0.5mg/kgの再灌流直前の投与で心筋梗塞サイズ(22±9%)は対照群(42±7%)と比較して有意に小さかった。急性高血糖ラットモデルにおいてFHの再灌流直前の投与による心筋梗塞サイズ(20±2%)は対照群(43±11%)と比較して有意に小さかった。またFHを投与した正常血糖ラットと高血糖ラットの心筋梗塞サイズに有意差は認めなかった。以上のことから、急性高血糖ラット心筋梗塞モデルにおいて、FH 0.5mg/kgの投与によるポスコンは抑制されないことが明らかになった。
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